エグゼクティブアスリート

第1回Executive Athlete Talk Live

エグゼクティブアスリート
山根太郎氏 プロフィール

サンワカンパニー株式会社 代表取締役社長

関西学院大学卒業後、伊藤忠商事株式会社の繊維部門に入社。2014年、住宅設備機器・建築資材のインターネット販売を営むサンワカンパニーの創業者である父の死去に伴い社長に就任(就任当時は東証マザーズ最年少社長)。異業種出身の経験を⽣かし、住宅設備機器では珍しいインターネット通販を推進。業界の枠に囚われない積極的な事業を展開する傍らで、HEAD契約テニスプレーヤーというアスリートの顔も持つ。著書に『アトツギが⽇本を救う―事業承継は最高のベンチャーだ―』(幻冬舎 2018)がある。

 

1.命がけの選択

西田:記念すべき第⼀回⽬の「Executive Athlete Talk Live」のインタビューをお引き受け下さりありがとうございます。

山根氏:こちらこそ光栄です。スポーツを切り⼝にしたインタビューは受けたことがないので⼤変楽しみです。

西田:まずは背景からお伺いしたいのですが、お父様が現在の会社を創業されたのが1978年。⼭根さんは⼤学卒業後に伊藤忠商事で働かれていましたが、2014年に後を継ぐことになったのですよね。

山根氏:いわゆる⼆代⽬ですね。父からは後を継がせる気はないが、将来は「⼀国⼀城の主になれ」と言われていました。それで伊藤忠商事時代も将来の起業のための勉強として借り⼊れをし、不動産投資をしていました。その結果、自⽴できるくらいの⼗分な収⼊は得てはいましたが、結局、病気に臥した父から「やはりお前しかいない」と言われ後を継ぐことを決意しました。

西田:⼭根さんとテニスとの出会いについて教えてください。

山根氏:これは消去法です。2歳の時に病気にかかって後遺症で中学校3年⽣まで100m以上⾛ってはいけないと医者に言われ⾎が固まりにくくなる薬を飲んでいました。

西田:でもご自身はスポーツがやりたくてしょうがなかった。

山根氏:もちろんです。もともと100m以内だったら⼤丈夫なので短距離は結構速かったのです。中学3年の時に「薬飲むのをやめてスポーツやるか?その代わり死ぬ可能性もあるぞ」と父に言われて、「やります」と即答しました。「但し、責任は全部俺がとるから『実は病気の後遺症で…』とかは絶対に⼈には言うな」と念を押され、スポーツを始めました。

西田:相当の覚悟があってのことだったのですね。

山根氏:結論を言うと、成長期であることと運動による⾎管の拡張の両⽅が功を奏して、今は全く影響もなく、病院にも⾏っていませんが、当時として覚悟はありました。それで最初に⽬を付けたのがバスケ部でした。スラムダンク世代でしたので。ただ、身長が175センチしかないし、そもそもチームスポーツなので3年⽣から⼊っても試合に出さないと言われて断念。テニスと剣道とアメフトと卓球の顧問の先⽣が集まって、この中からだったら良いと言われたので、その中で⼀番モテそうなテニスを選びました(笑)

西田:上達するきっかけみたいなものはあったのでしょうか?

山根氏:自分の中でゴルフなど他の競技がそうなのですが、出来なくて悔しく思わないものは上⼿くならないと思っています。当時、テニスコートにボールが返らない。隣で⼩学⽣がポンポンやっていたのを⾒て「これは悔しいな」と思って練習しました。もし、あそこで上⼿く出来ていたら、ここまでテニスにハマっていなかったかもしれません。あと、遅く始めたのが逆に良かったと思います。圧倒的な勘違いができたんです(笑)。⼩さい頃からやっていると、国際⼤会へ⾏って身長2mのプレーヤーが、⾒たこともないような球を打つのを⽬の当たりにすると、国内で無敵だった⼈ほど挫折してしまいます。その点、僕はそもそもエリートでもないし、国内でも凄い球ばかりだと思っていたので、2mの⼈たちを前にしても、もう少し練習したら何とかなるのではないかと思えたのです(笑)。知らないって恐ろしい(笑)。「ポジティブに勘違いする⼒」ですね。

2. 海外での挑戦が人生を変えた

西田:中学3年で始められてからの戦績はいかがでしたか?どうやって頭⾓を現してきたのでしょう?

山根氏:実は全然ダメだったんですよ。初めての公式戦ではシングルスもダブルスも兵庫県予選1回戦負け。1年間やって漸く予選が勝てるようになって、その年の最高成績は兵庫県でベスト16。高校3年⽣になって関⻄⼤会まで進んであと1つ勝ったら全国というところで負けました。父から3年間テニスに費やして全国⾏けないのならやめろと言われ、最後にケジメがつくかと思い、いきなりフロリダの国際⼤会へ遠征しました。そうしたら、なんと居並ぶ有名選⼿に何度も勝ち、準決勝まで⾏ったんですよ。

西田:ということは、実はその世代の⽇本のレベルが高かったということですかね。

山根氏:父には「野球とベースボールが違うように、庭球とテニスも違う。だから海外を主体にやれ」と言われました。その遠征で幸運にも元デビスカップ⽇本代表の⽩⼾さんと出会って、イキの良い高校⽣がいると思っていただき、⽩⼾さんのダブルスのパートナーで当時の⽇本代表男⼦監督が芦屋でテニススクールをしているということで、そこへ推薦してもらったんです。周りが全員プロの中での練習に⼊れてもらい、もまれながら戦績も良くなっていきました。DNAは後天的な成果に影響はないが、そのDNAを何が変化させるかというと「環境」だという研究結果が出たというのは本当にその通りだなと思いました。

西田:海外に⾏けと言ったお父様の進言が、劇的な転換点だったのですね。

山根氏:そうですね。

西田:ところで、⼭根さんはどんなプレースタイルですか?

山根氏:カウンタープレーヤーといって、自分からすごい球を打つのではなく、厳しく打たれた球をより厳しく返すというプレーヤーですね。自分がカウンターを打ちやすいように相⼿に仕向ける戦術です。

西田:それは頭使いますね。

山根氏:頭と体⼒を使いますね。あとはサーブが早くて曲がるので武器になっています。

西田:そういう戦術が海外の対戦相⼿には有効だったのかもしれませんね。

山根氏:当時の⽇本の高校⽣だとほとんどがミス待ちなんですよ。海外はたくさん打ってくるのでそれがハマったのかもしれません。

3. ゲームを楽しむ

西田:高校3年⽣で頭⾓を現して、⼤学4年間はプロの中でテニス漬けという⽣活だったのですね。

山根氏:テニス漬けは⼤学3年⽣までです。ニュージーランドの遠征で世界ランキング500位の選⼿に6-0×3セットの20分という異例の速さで負けて、世界1位にやられるならまだしも、500位にやられるなら、もう無理だと思ってそこでスッパリ諦めました。

西田:イタリア留学はテニスをやめてからでしょうか?

山根氏:留学は2005年〜2006年でテニスをやめてからです。もっとも、実は現地で週4〜5回はテニスをしていました。⻄洋⼈は基本的に⽇本⼈を⾒下しているのですが、そこで圧倒的な実⼒を⾒せると逆にリスペクトしてくれます。町⼀番のテニスプレーヤーを倒したらフィレンツェ中のテニスファンが味⽅についてくれて、ジュニアを教えたりする機会があったんです。それで、夏休みに⽇本⼈の友⼈がイタリアの⼤会に出ると言ってきて、暇つぶし程度にダブルスに出たら何と過去最高成績がそこで出ました。

西田:背負うものがなくて自由にできたのですかね?

山根氏:そうですね。テニスをやっていた最後の⽅はゲーム自体を楽しめていなかったと思うんですよ。勝たないといけないというプレッシャーがあって。

西田:他のスポーツでもそうですけど、よくプロが「今⽇はゲームを楽しみたい」と言いうことがありますが、それって本質的なことなのでしょうね。 楽しむことで⼒が出るという感覚はありますか?

山根氏:あると思います。結果を意識すると体が⼒んで負けてしまう。楽しむのは余裕があってリラックスしている状態なのですべての調⼦が良くなります。

西田:それは仕事にも言えますか?

山根氏:言えますね。それは顔にも出ます(笑)。社長に就任した時より今の⽅が全然いいと思います (笑)。その時はスポーツする余裕もなかったし、社長業が何かも説明できなかった。

4. 発想の根源

西田:HEADとプロ契約をしたのはどのような経緯なのでしょうか?

山根氏:改めて振り返るとテニスで⼤した成果がないんですよ。スポーツ選⼿として⼈に言える結果が1つでも欲しいなと思ったときに、これまで全てどのカテゴリでも⽇本⼀を取っていないという⼼残りがありました。もし、当時に戻れるなら国内⼤会に出てタイトルが欲しいという話をHEADの知り合いにしたら、テニスは年齢別⼤会があって、35歳から5歳ごとに年齢別全⽇本選⼿権⼤会があると。35歳でも相当な数がいるから、35歳のチャンピオンでも良いのではないかと言われて、サポートしてくれることになりました。

西田:今はどのように練習されているのですか?

山根氏:朝の5:30-7:30にパートナーの⽅と練習しています。⼟⽇は少し長めで7:00-10:00とかですね。

西田:仕事に影響しない時間帯ですね。でも、睡眠時間は確保できていますか?

山根氏:もちろん。あくまで本業はサンワカンパニー社長なので(笑)睡眠時間は、5時間半くらいです。この⽣活を始めて1年間経って⼈間ドックの数値がどうなるかを検証したのですが、全ての数値が改善しました。そんなに寝なくても⼤丈夫です(笑)。

西田:スポーツが仕事にどういう影響を与えるかですが、⼭根さんはテニスをやっていて、その辺りはどうお考えですか?

山根氏:1番良かったのは広報のフックができたことですね。上場企業の社長は約3700⼈いますが、メーカー契約がついているスポーツ選⼿は他にいないのですよ。

西田:しかもイメージアップにもつながりますよね。

山根氏:はい。合わせて副業も解禁したので、社長が半分副業でスポーツ選⼿をやっているのがコーポレートイメージでポジティブに外に出ていくということと、あとは健康経営ですね。社内でも社員の部活動を奨励しサポートしていますが、スポーツを推進することで、⽣産性の向上に繋がっていると思っています。

西田:具体的に⽣産性の向上効果とは?

山根氏:自分の場合、社長に就任したての頃は周りから認められ、褒められたいとばかり思っていましたが、今は遊んでいるようにしか⾒えないくらいでちょうどいいと思っています。10年後くらいに社員から「社長は10年前にこんなことまで考えてやっていたんだ」と言われるくらいの仕事をしなければならない。いわゆるクリエイターですよね。ビジネスという形でソリューションを出す作業をやっていく上で煮詰まった状況ではクリエイティブな発想は出てきません。スポーツを始める前は会社のことだけを考えているので発想が出てこなかったのです。スポーツを始めてからは上場企業の社長ってかりそめの姿であり、36歳ってこんなもんだと、客観的に自分の⽴ち位置が知れるのが良いですね。社長という⽴場だと利害関係があるから本⾳は言ってくれない。スポーツという軸には本⾳で話せる友⼈がいます。コートに⼊れば⽴場に関係なくフラットなのでそれが精神衛⽣上すごくいいと思います。

西田:発想というか、直感⼒が増すという感覚があるのですね?

山根氏:ありますね。テニス中は仕事のことを⼀切考えないです。⽬の前の相⼿に勝ちたいという思いだけです。コートに⼊ったら今年全⽇本ベテランを取りたいということしか頭に⼊らないから逆に仕事とのスイッチが自動的に完全に切れていますね。コートに⾏くとき、帰るときの運転中に1回スイッチが切れて、物事をフラットな状態で考えられるようになっています。仕事を⽣活の中に組み込んでいるので仕事のことを考えるのはストレスではないのですけど、煮詰まるタイミングでスポーツをすることで勝⼿に忘れてしまいます。そして我に返ったときに新しい考えが浮かぶ感じです

5. 自分たちの世界観を世の中に広めるために

西田:今後の⽬標は先程の35歳クラスで優勝することですかね?

山根氏:そうですね。今年はベスト4で敗退してしまい悔しい思いをしたので、35歳のカテゴリでは無理でも将来どこかのカテゴリーで⽇本⼀になりたいですね。

西田:ビジネス的な⽬標ですと、どういうことを公言されていますか?

山根氏:2027年の売り上げ1000億円ないし、営業利益100億円達成です。30年後に引退するとき1兆円企業にしてスパッと次の代に渡すということですかね。

西田:売上1000億円、営業利益100億円が達成されると会社や従業員にはどんな良いことが起きるのでしょう?

山根氏:例えば本社ビルがあって1,2Fはショールーム、3Fは社員ならいつでも使える⾷堂、4Fジム、5F会議室、6F以上はオフィスという設計をして、社員が休みの⽇でも暇だから会社に遊びに⾏こうと思える、社員にとっても仕事がライフスタイルに上⼿く組み込まれているような状態を作りたいですね。社員証を持っていたら家族も使っていいし、買い物ついでにコーヒーでも飲んでいこうかみたいなカフェ⾵に作れたらいいなと思っています。働き⽅ももっと自由に、必ずしも⼟⽇休みじゃなくても良いという⼈もいてよいと思っています。オフィス自体も365⽇稼働を前提に、海外の⼈⽤にお祈りの部屋があったり、性的マイノリティの⼈が使えるようなトイレがあったり。100億円くらい利益が出ていないと自分たちの世界観は作れないんですよ。ある程度実績が作れてはじめて自分たちの世界観を現実社会に広げていくことができると思っています。

西田:なるほど、⽬標にわかりやすい「意味付け」がされていますね。

山根氏:5年前、経営者とは実務のスペシャリストであるべきだと考えていましたが、今は猛獣使いだと思っています。個々の能⼒は自分より優秀な⼈間がチームにいて、でも僕が進むべき⽅向を指し⽰すという経営者になりたいですね。経営者は自分の世界を作れるというのが1番の醍醐味だと思うんですよ。

6. テニスは人生を楽しむツール

西田:ご自身にとってテニスとは何でしょう?

山根氏:テニスは人生を楽しむツールです。テニスを使うことはあっても、テニスにすがってはいけないと思っています。逃げには使いたくないですね。

西田:最後に仕事とスポーツの両⽴を⽬指している皆さんにメッセージをお願いします。

山根氏:スポーツをする⼈に対して、スポーツは人生を豊かにしてくれるものだと思いますね。何か⼀つをするだけでは煮つまってしまうので、スポーツでも芸術でも何でもよいと思うけど、スポーツは体を動かしていくので気持ちが良いです。また、経営はすぐ結果が出ないけどスポーツは次の⽇に結果が出ることもある。やった分数値として結果が出てやりがいにもつながるので是⾮人生を楽しむツールの⼀つとして取り⼊れてほしいと思います。