エグゼクティブアスリート

第2回Executive Athlete Talk Live

エグゼクティブアスリート
中村浩士氏 プロフィール

BEENOS株式会社 代表取締役副社長 グループCFO

1990年、野村證券株式会社に入社しIPO部門にて10社以上の株式上場を手がける。
1996年からインターネット黎明期にネットベンチャーでの経験を経て、2001年には自身でコンサルティング会社を設立し、企業の上場支援や事業再生などを手がける。
2003年株式会社ネットプライス(現BEENOS株式会社)監査役就任、2004年ファイナンス子会社代表取締役社長、2006年から管理部門を統括し、2012年より代表取締役副社長兼グループCFOとしてグループ全体の管理部門を統括する。

 

1. 日本と世界を繋ぐ「グローバル・プラットフォーマー」

西田:本企画は、経営者でありながら、アスリートとしても正面から向き合っている皆さんにインタビューするものですが、本日、中村さんからお話が聞けることを楽しみにしておりました。

中村氏:ご参考になる話ができるかわかりませんが、こちらこそ宜しくお願いします。

西田:まず、BEENOSさんの業務内容から教えていただけますか?「ブランド売るならブランディア♬」というCMでお馴染みのブランディアもグループ企業の一つでいらっしゃいますよね。「日本と世界を繋ぐグローバル・プラットフォーマー」を標榜していらっしゃいます。

中村氏:今はもう資本関係はありませんが、元々はサイバーエージェントの子会社として1999年に共同購買モデルのeコマースの会社として創業しました。ちょうどモバイルでのコマースの黎明期で、インターネットを使うからにはグローバルに展開して世界中の商品を流通させたいという構想がありました。

西田:海外と日本の双方向でのeコマースということですね。

中村氏:世界中の方々が、日本で売られている商品を、自国語、自国通貨で、関税等の手続き等の煩わしさなしに気楽に買えるようにしています。例えば、海外在住の方が検索して日本のECサイトに辿り着いたとしても、そのECサイトが海外への取り扱いをしていないと単純に機会損失になってしまいます。そこを我々が間に入ることで、日本のECサイト側からすると国内の流通と全く同じような感じで気付いたら海外に商品を売っているような形をとっています。現在、約2200のECサイトと連携し、海外での会員数は200万人、逆に海外商品を購入する日本の会員数は90万人ほどいます。

西田:BEENOSのグループ会社には、「tenso」「Buyee」「セカイモン」「Brandear」「JOYLAB」「monosense」などがありますが、中村さんのお役割は、これらグループ会社を束ねるホールディングカンパニーの副社長兼CFOということですね。

中村氏:はい、グループ全体の適正な資金配置や効率化とその調整役を担っています。非常に難しいですが、直近ではグループ一体運営をかなり意識していて、人材の流動化や評価制度の統一化などにも力を入れています。少し前までは各社が独立採算のような形になっていて、評価・報酬は各社の業績に連動させていたのですが、その時々の組織のステージに合わせて制度を進化させています。

2. 経営者仲間に導かれたトライアスロンへの挑戦

西田:中村さんのスポーツ遍歴はどのようなものですか?

中村氏:私は大分県の出身ですが、小学生の時は親に言われるままに柔道をやり、同時に少年野球もやっていました。野球はそのまま中学まで続けました。高校になって初めて自分の意志でバスケットへ転換しましたが、県のベスト8くらいまで止まりでしたね。どの部活でもずっとキャプテンをやらせられていました。大学時代はスポーツというよりバブルに踊らされた世代です 笑

西田:同じです 笑。同世代ですものね。そんな中で、トライアスロンに出会ったのはいつ頃ですか?

中村氏:トライアスロンは40代に入ってからです。「志友会」という経営者の会へ入会した際に、メンバーの方からホノルルトライアスロンへの参加を打診されました。皆参加するものなのかと思い、軽い気持ちでエントリーしてしまったのが始まりです。

西田:トライアスロンって、ハードルが高いイメージですが、既にご自身の体力には自信があったのですね。

中村氏:いえいえ、社会人になってからはジムには通っていましたが、継続的にスイムや筋トレはしていませんでした。5キロくらい走るのがやっとでしたし、スイムは得意な方ではありましたが、海で泳いだ経験もなく、また、自転車に至ってはママチャリを乗る程度でした。

西田:それでもやってしまわれたのですね。

中村氏:まぁ40歳を超えてこのままだと老化していく一方で何かしなければいけないという危機意識は持っていましたので、今やらなかったら、たぶんずっとやらないなと思ってやることにしました。

西田:普通の方にはその決断がなかなかできない。

中村氏:一般にトライアスロンというと、アイアンマンレースを思い浮かべると思うのですが、アイアンマンレースは、スイム3.8K、バイク180K、ラン42.195Kですので、生半可な姿勢では挑めません。一方で、トライアスロン(オリンピック・ディスタンス:オリンピックの競技条件)は、スイム1.5K、バイク40K、ラン10Kなので、それほどハードルが高くはありません。

西田:私も個別にはジムでやっていますが、それでもいざトライアスロンとなると敷居が高いです。特にスイムが厳しそうで。

中村氏:スイムはウエットスーツを着ると浮くのですよ。表面積が1mm増えるだけでも推進力が違います。水の抵抗力を軽減するために体を水平に保つことだけ心がけたら何とかなりますよ。

3. 楽しくも不安だった初戦への準備

西田:そうなのですね。とはいっても、その他の競技を含め、どのように準備されたのでしょう?

中村氏:まずは自転車を買わないと始まらないなと思って。当時は無知だったので、家の近所の自転車屋へいって「どれがいいか教えてください。予算は10万円までです。」と伝えたら「競技用でそんな安いものはありません。」と言われました 笑。少しくじけそうになったのですが、たまたま当社の社外役員の中にトライアスロンをやっている人がいて、もしかしたらお古がないか?と思って聞いてみたら「ある」という朗報が入って、その方から自転車を譲り受けて練習を始めたという流れですね。

西田:具体的な練習はどうされましたか?

中村氏:スイムについては続けては50ⅿくらいしか泳げなかったのです。距離を泳ぐということがまずなかったのですごく不安でしたね。おぼれる可能性もありますし、そういうのが一番危険だなと思っていたので。丁度、会社の下の階にジムがありまして、朝7時から出社までの間、週2回くらいのペースでプールに通いました。

西田:1時間くらい泳ぐのですか?

中村氏:そうですね。それでだんだん泳げる距離が長くなり、1か月くらいで1.5キロ泳げるようにはなりました。ただ、海はプールのように線が引いていませんし、真っ直ぐに泳げないことへの不安がありました。そこで、大会前に1回海で泳ぐということをやって初めてのレースに臨みました。

西田:自転車はどのような練習をされたのですか?

中村氏:ホノルルトライアスロンへ行くメンバーが5人くらいいましたので、そのメンバーで集まって、荒川でよく練習をしました。荒川の土手にサイクリングコースのようなコースがあるのです。

西田:金八先生みたいなところですか?

中村氏:そうです 笑。いつも荒川の河口付近から埼玉の方まで行っていましたね。

西田:距離的にどのくらい走るのですか?

中村氏:40キロくらいです。20キロ行って戻ってくるのが基本でしたね。

西田:お仲間が5人いらっしゃったので、楽しく練習できたという感じでしょうか?

中村氏:そうですね。最初はとにかくお尻が痛くて。サドルが固いので。

西田:バイクはみんなユニフォームみたいなものを着ますよね?

中村氏:最初はなかったですが、2年目から作りました。

西田:だんだんそういうのって凝ってくるのですよね。

中村氏:そうなのですよ。あれでモチベーションが上がるのです 笑。

西田:ランはどんな感じですか?

中村氏:ランは家の近所を走る程度でした。実は、10キロちゃんと走ったのは初めての大会前の1回だけだったのです。

西田:えっ、そうなのですか!

中村氏:ランは走り始めると、まずだいたい腸脛靭帯を痛めるのですよ。膝の外側の筋があるのですが、ひざの筋肉を鍛える前に走り始めるとだいたいこの筋を痛めるのです。それで僕も痛めてしまって、サポーターがないと走れないような状態になってしまいました。それでもう本当に焦ってしまって、ホノルルの大会が5月だったのですが、5月までの間に海で泳げる場所は、海外に行くか沖縄に行くしかなくて、ゴールデンウィークに沖縄に行って海で泳ぎ、初めて10キロ走って大会に出ました。

西田:実際にホノルルトライアスロンに初出場されてどうでしたか?

中村氏:単発ではやれていた競技を3つ続けてやったことはその大会が初めてで、どこにどれだけ力を使っていいのか、ペース配分がわからなかったですね。とりあえず8割くらいの力でやれば良いかなと思ってやってみたら、意外と何とかなったのですよ。

西田:頭脳プレーでやり遂げた感じですね。

中村氏:いえいえそこまで頭は使ってないです 笑

4. 過酷なアイアンマンレース

西田:初戦を経験してから本格的なトレーニングをされるようになったのですね?

中村氏:そうですね。最初は我流でやっていたのですが、上達しようとするとそれではダメなことに気付きました。スイムではいろんな先生に教えを請いましたが、皆、教え方が微妙に違うのです 笑。大切なのは自分に合う先生を見つけること。ランも専門のトレーナーにフォームをチェックしてもらったりしました。バイクだけは教わったことはありませんが、僕は腰椎ヘルニアに加え、頚椎ヘルニアも経験してまして、前傾姿勢になった状態で頭をあげて前を見るので、首に大きな負担がかかることから、特に姿勢には気を付けています。

西田:その後の戦績はいかがでしたか?

中村氏:ホノルルトライアスロンには8年連続で挑戦し続け、毎年自己ベストを更新しています。また、年2〜3回のオリンピックディスタンスレースのほかに、年1回はロングディスタンスのレースにも出場していて、2014年のIRONMAN JAPAN(北海道洞爺湖)を皮切りに、五島長崎、宮古島の大会等に出ています。

西田:アイアンマンレースでも自己ベストを更新し続けていらっしゃるのですか?

中村氏:それが2015年の五島長崎の大会では完走できませんでした。ランの32キロ地点で制限時間が設けられているのを知らずに1分オーバーで完走できなかったのです。実はそれもあって来年5年ぶりにリベンジしようと思っています。宮古島の大会は3年連続で出ていて毎回タイムを更新すべく挑んでいるのですが、記録は悪くなる一方です。2年目はゴールしたのが制限時間の25秒前というまさに死闘でしたし、3年目は制限時間の足切りで完走できませんでした。

西田:アイアンマンレースはそれだけ過酷なのですね。

中村氏:そうですね。1回目の宮古島の時はゴールして歩けなくて車いすで運んでもらい、2回目は低体温症になってゴールした瞬間担架で運ばれてそのまま点滴でした。

西田:過酷ですね。そのような中、経営者とトライアスロンを両立する難しさはどんなところにありますか?

中村氏:そうですね。オリンピック・ディスタンスだけならそんなにトレーニングをやらなくても何とかなるのですけど、アイアンマンレースに出ようとすると相当トレーニングに時間を割かなければいけないところですね。週末だけでは足りないと思うので、平日もどこかで時間を作ってやる必要があり、1番難しいのはその『時間の確保』です。

西田:それをどうやって確保していらっしゃいますか?

中村氏:スケジュールに朝と夕方の時間を週2回はブロックして、そのうちどちらかは必ずトレーニングに充てています。

5. トライアスロンが経営者を虜にする所以

トライアスロンが経営者を虜にする所以

西田:両立には規律が必要ですね。これまでのご経験から、スポーツがもたらすポジティブな効果があると思いますが、仕事と私生活にそれぞれどんな良い影響があるのか、ということについてお聞かせ下さい。

中村氏:なんといってもトライアスロンを通じて素敵な仲間が増えたことですね。経営者でやっていらっしゃる方が多いので、仕事にも繋がりができます。単独のスポーツではこんなにネットワークは広がらないような気がしています。

西田:それはどうしてでしょう?

中村氏:ハードルが高いものに挑んでいる連帯感のようなものがあるからでしょうか。トライアスロンは3種目のトータルで競うものです。この人にはトータルでは勝てなくても、ランでは勝てるとか、逆に、スイムでは勝てなくてもトータルでは勝てるとか、そこに競争する上での面白さがありますね。

西田:なるほど。ゴルフだけで競うという形ではなくて、マルチスポーツで、総合力で切磋琢磨していけるというところに仲間意識も醸成されて気持ちよく競えるということなのでしょうね。

中村氏:そうですね。ずっと所属するトライアスロンチームのキャプテンをしていたのですが、仕事とプライベートの間にトライアスロンのチームがあって「完全プライベートでもないが仕事でもない、でもそこにはチームのマネジメントが役割としてある」という“サードプレイスとしてのバランス”がとても心地よかったですね。人は心の“サードプレイス”みたいなものが必要だと思うのですが、僕にとってはトライアスロンのチームがまさにサードプレイスでした。

西田:中村さんは、50人ほどが所属するトライアスロンチームのキャプテンを務められていたのでしたね。振り返ると、学生時代から常にリーダーに祭り上げられていらっしゃいます。

中村氏:私にはリーダーシップはないのかもしれませんが、バランス力はあるのかもしれません。バランス力が取れている人はいろんな人の多様性を受け入られますし、相手も接していて心地よいのでしょう。自分から手を挙げたことは一度もありませんが、気が付いたらキャプテンをさせられていますね 笑。

西田:キャプテンを担われる上で気を付けていることは何でしょうか?

中村氏:あくまで趣味の集まりですから、締め過ぎても不満が出ますし、あまり自由過ぎてもまとまりません。一人ひとりの意見をリスペクトしながら、ほどよいルールを作って運営することでしょうか。

6. トライアスロンはバランスを取るためのアクティビティ

トライアスロンはバランスを取るためのアクティビティ

西田:今後の目標を教えてください。

中村氏:60歳までトライアスロンをやり続けることと、途中リタイヤとなってしまったバラモンキング(五島長崎トライアスロン)へのリベンジですね。

西田:トライアスロンの他にチャレンジされていることはありますか?

中村氏:実は今、キックボクシングにもハマっているのです。月に一度、会社の福利厚生の一環として、キックボクシングの世界チャンピオンを招いて、社員と共にボクササイズをしています。トライアスロンにとっても非常に良い体幹トレーニングになっています。月1回では満足できなくなって、今は毎週道場に通っています。笑

西田:あらためて中村さんにとってトライアスロンとは何でしょう?

中村氏:バランスをとるために必要な時間、アクティビティですかね。トライアスロンとの出会いは人生を変えるくらいインパクトのある出来事でした。本当に仲間が増えましたし、健康にも気を遣うようになり、どうやって時間を作るか工夫するようになりました。まさに人生を変えたスポーツですね。

西田:最後にスポーツと仕事の両立を目指す皆さんにメッセージをお願いします。

中村氏:スポーツを通じて、健康が維持できて仲間も増える。共通の目的を持って切磋琢磨していけるという意味で、単にジムに行くだけよりは仲間をもって行うスポーツの方が良いと思いますね。仕事と私生活の間にスポーツの仲間との“サードプレイス”をもって、バランス良い人生を歩んでいけたら素敵だと思います。