第117回 ジビエの旬

アスリートフードマイスターの國井克己が
ジビエの謎と誤解を解き、アスリートのためのジビエ活用術をお届けします!

春は山菜、竹の子、初夏には鮎、秋はキノコ
僕のような猟師にとって身近な山の旬。
食材には当然ながら旬が有るが、意外と知られていないのがジビエの旬。 
山菜や野菜、魚に旬が有るのであれば、同じく自然の恵みであるジビエにも旬はあるのだ。

例えば、鴨の多くは初秋は雄と雌は同じ色だが秋の終わり頃から雄は換羽といって羽が生え変わり美しい色合いになる。
美味しい鴨の代表 マガモ、通称あおくび とはこの換羽後の雄を言う。この換羽後の鴨は肉付きも良く美味い。

猪は初秋から冬にかけてに太りだし繁殖期前の十一月から十二月ぐらいが一番美味い、
それを過ぎると雄はサカリに入り独特の匂いを出し、生殖をかけた戦いの時期に入るので
身体が鎧のように硬くなる だから臭くて硬い肉となる。

鹿は?
鹿の一番美味い季節は夏である。 猪と違い、鹿は夏になると身が太りだし、脂がのって肉付きが良くなる。

そして! 
意外と知られていないのが! 
この時期は雄鹿のシンボルである大きな角が無い! 
雄鹿の角は春には抜けて無くなり、夏の間は雌と見分けがつかない。

初秋から前年より立派な角が生え始め冬には生殖をかけた戦いの武器となる。
幼い鹿は真っ直ぐ短い角。
若鹿は二段に枝分かれした角に、
成獸となった鹿は三段に生え変わる。
老練な鹿で四段も希に見かける。

恥ずかしながら猟師になった頃はそのことを知らなくて、春は雄鹿を見ないなあ、なんて言って先輩に大笑いされた。
今では懐かしい思い出である。

基本的に猟師が猟を行って良い時期を猟期と言い、自治体によって若干の差はあるが秋から冬の間の一定期間と法律で定められているが、それ以外の時期でも 農業被害を防ぐため、固体調整の為の捕獲は別の資格で行われており、夏も鹿肉を入手することは可能だ。

僕自身も農地の被害防止の為に猪、アナグマ、カラスの捕獲を年間通して行っている、
小さな畑などは、家族単位で行動する猪が現れると一晩にして作物が全滅してしまう。

お年寄りの農家で、収穫を前に壊滅的被害を受け心折れ耕作放棄してしまった田畑がどんなに多いことか!
木の皮を食べる鹿に食い尽くされ禿山になってしまった山がどんなに多いか!
山を歩くと良くわかる。

猪、鹿と農家、猟師との戦いの歴史は古く、前回の僕の記事に書いたように山間部では獣肉食が禁じられていた江戸時代でも普通に食べられていたのだ。

鹿は数年前まではレバーも肉も刺身で食されることが多かった。
しかし近年はE型肝炎のリスクがあることが解り、生食は禁じられている。

鹿のレバーは 焼いても抜群に美味い。
そして
栄養価も鶏や牛なんぞ目じゃ無いぐらい鉄分が豊富。
食べた翌日、翌朝には体感出来た!と言う人が多い。
究極のアスリート食材である。

鹿レバーは新鮮で尚且つ適正に処理されたものを入手することが不可欠である。
僕の場合、捕獲後レバーを摘出、何箇所か切れ目を入れて血抜き
持参した冷えた水で何度も洗い流し、抗菌吸水シートに包みクーラーボックス。
持ち帰ったら大きなボールに大量の氷水を入れて浸しては水の交換を短時間に最低十回。
その後牛乳に浸して臭みを抜くのも良いと思います。

昔ならばしょうが醤油で刺身!だったんですが、今は炭火七輪であぶります。
それでも抜群に美味い。
暑いこの時期、鹿レバーをアルザスの白ワイン ゲヴェルツと合わせてやるのが僕のお気に入りの組み合わせ!

●アスリートフードマイスター
國井 克己 (くにいかつき)
飲食店主であり猟師でもある。
ジビエの捕獲から調理販売までこなすジビエのエキスパート。
猟期は愛犬を従え山を駆け巡りジビエの調達をしています。
トレーニング暦は三十年、年間平均体脂肪は10パーセント。
ジビエを使ったアスリートの食事指導と提供も行っています。

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